
行政書士
財務コンサルタント
磯村 威暢
2,000万円の負債がある会社を復活させた財務管理力と、採用から資金繰り、設備投資まで、経営者として20年のキャリアで培った問題解決力を活かして中小建設業者の経営をトータルサポート。
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[持続可能な経営支援]
中小企業の社長と話をしていると、時折「うちは黒字なのに、なぜかいつもお金がカツカツで…」といった悩みを打ち明けられることがあります。会計上は利益が出ているはずなのに、なぜ会社の預金残高は一向に増えないのでしょうか。不思議に思われる方も多いかもしれません。
この一見矛盾する現象の背後には、様々な要因が複雑に絡み合っています。その中でも特に見過ごせないのが、借入金の存在です。借入金は、事業拡大や資金繰りの安定に不可欠な経営上のツールでありますが、一方で、黒字経営を圧迫し、手元資金を減少させる大きな要因となり得ます。
本稿では、「黒字なのにお金がない」という状況に陥る理由を、借入金に焦点を当てて深掘りしていきます。借入金のどのような側面が資金繰りに影響を与えるのか、具体的な事例を交えながら、その仕組みを詳しく解説してまいります。
利益が生まれる基本的な仕組みは、経営者の方であれば既に理解されていると思いますが、改めてその構造を確認していきます。会社の収益力を示す利益は、決算書類の一つである損益計算書(P/L)でその段階的な内訳を確認できます。
まず、本業である営業活動によって得られた売上高から、売上原価や販売費、一般管理費といった事業に必要な経費を差し引いたものが「営業利益」です。この営業利益が、会社のコアとなる事業活動の成果を示しています。
次に、営業利益に受取利息や配当金などの「営業外収益」を加え、支払利息や固定資産売却損などの「営業外費用」を差し引くと「経常利益」が算出されます。経常利益は、本業以外の財務活動なども含めた、会社全体の経常的な収益力を示す指標となります。
そして最終的に、この経常利益から法人税、住民税、事業税といった税金を差し引いた残りが「税引後利益(当期純利益)」です。一般的には、この税引後利益が会社に最終的に残るお金、つまり内部留保に充てられる原資となると考えてほぼ間違いありません。しかし、「黒字なのにお金がない」という状況を理解するためには、この利益と実際のお金の流れが必ずしも一致しないという点を押さえておく必要があります。
それでは、損益計算書(P/L)上の利益と、会社における実際のお金の流れが一致しないのはなぜでしょうか。その理由は、P/Lには記録されない、重要な資金の動きがあるからです。その代表的な例として挙げられるのが、多くの中小企業が活用している金融機関からの融資です。
融資によって会社に資金が入った場合、それは売上代金が入金された時と同様に、会社の預金残高を増加させます。しかし、この資金の動きは、P/Lには一切現れません。P/Lが捉えるのは、あくまで収益と費用の数字であり、資金の調達(借入)や返済は、その範疇外となるためです。P/Lに間接的に影響を与えるのは、借入金の利息支払いが営業外費用として計上される程度です。
このように、売上という本業からの収入とは別に、借入金という形で会社にキャッシュが流入する、もう一つの重要な資金の流れが存在することを、まずは理解しておく必要があります。そして、このP/Lに表れないお金の流れこそが、「黒字なのにお金がない」という状況を理解するための重要な鍵となります。
鋭い方は既にお気づきかもしれませんが、中小企業において「黒字なのにお金がない」という状況の多くは、借入金が深く関わっています。前述の通り、借入金の借り入れ自体はP/Lに収益として計上されません。しかし、P/Lに現れないからといって、借入金の返済義務が消えるわけではありません。
では、会社は一体どこからこの借入金を返済しているのでしょうか。その主な原資となるのが、P/Lで最終的に残った税引後利益です。例えば、ある会社が年間100万円の税引後利益を計上したとします。損益計算書だけを見ると、「利益が出て良かった」と安心してしまうかもしれません。しかし、もしこの会社の年間借入金返済額が150万円だった場合、会計上の利益だけでは返済が賄いきれず、不足分の50万円は会社の預金などの既存の資金を取り崩して支払うことになります。
これがまさに「黒字なのにお金がない」、言い換えれば利益が出ているにも関わらず、会社にお金が蓄積していかない根本的な理由です。もし、手元に十分な資金が残っており、一時的な資金不足を乗り切れるのであればまだ良いのですが、もし資金が枯渇してしまうと、最悪の場合、黒字であるにも関わらず資金ショートに陥り、倒産という事態を招きかねません。これこそが、いわゆる「黒字倒産」と呼ばれる現象です。利益が出ているからと言って決して安心はできず、借入金の返済計画と資金繰りをしっかりと管理することの重要性がここにあります。
それでは、借入金がある状況でも、会社にお金がしっかりと残っていく状態をどのように作り出せば良いのでしょうか。その原則は非常にシンプルです。それは、借入金の返済額を上回る税引後利益を継続的に計上することです。
より厳密に考えると、「税引後利益」に「減価償却費」を加えた金額です。この「税引後利益+減価償却費」の合計額が、年間の借入金返済額を上回るように事業計画を立て、実行していくことが重要となります。
減価償却費は、過去の設備投資などにかかった費用を、その耐用年数に応じて費用として計上する会計上の処理であり、現金の支出を伴いません。したがって、利益にこの減価償却費を足し戻した金額が、実際に会社に残るキャッシュフローに近い数字となります。このキャッシュフローが借入金の返済額を上回っていれば、会社の現金は着実に積み上がっていくことになります。
逆に言えば、この関係性が崩れている場合、たとえP/L上で黒字を計上していても、現金は徐々に減少し、「黒字なのにお金がない」という状況に陥ってしまう可能性が高いと言えます。したがって、利益だけでなく、キャッシュフローの視点を持って経営を行うことが、黒字経営を持続させ、かつ会社にお金を残していくための重要なポイントとなります。
本稿では、「黒字なのにおカネがない」という状況に陥る原因について、借入金に着目して解説してまいりました。ここで強調しておきたいのは、借入そのものが決して悪いわけではないということです。むしろ、中小企業にとって金融機関からの融資は、事業の成長や安定を図る上で不可欠な資金調達手段であり、重要な財務戦略の一つと言えるでしょう。
しかし、中小企業の経営者が肝に銘じておくべき点は、損益計算書上で利益が出ているからといって、会社の財務状況が常に安全であるとは限らないということです。利益とキャッシュフローは異なる概念であり、特に借入金の存在は、この二者の乖離を生み出す大きな要因となります。したがって、利益だけでなく、日々の資金繰りをしっかりと把握し、借入金の返済計画を慎重に管理することが、安定した企業経営には不可欠です。
もし、今回ご紹介した「黒字なのにおカネがない」という状態の解消に向けた取り組みに不安がある場合は、迷わず財務の専門家にご相談ください。専門家は、より深い分析に基づいた具体的なアドバイスや、改善に向けたサポートを提供することができます。
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