
行政書士
財務コンサルタント
磯村 威暢
2,000万円の負債がある会社を復活させた財務管理力と、採用から資金繰り、設備投資まで、経営者として20年のキャリアで培った問題解決力を活かして中小建設業者の経営をトータルサポート。
CONTENTS
多くの中小企業経営者は、日々の事業活動に追われ、会社の財務状況を詳しく把握する時間がなかなか取れないと思います。中小企業の社長と話をすると、『債務超過』という言葉は知っていても、それが具体的に何を意味し、経営にどのような影響を与えるのか、ピンとこない方も少なからずいらっしゃいます。しかし、会社の健康状態を示す「貸借対照表」を理解することは、事業の成長と安定のために不可欠です。
そこで、本稿では、中小企業の経営者の皆さんに、債務超過とは何か、そして債務超過のままだとどんな問題が起こりうるのかを理解いただける内容となっています。
会社の財政状態を表すものに貸借対照表があります。貸借対照表は、会社のある時点における財産の状態を「資産」「負債」「純資産」の3つの要素で示します。
資産:会社が持っている財産全般を指します。現金、預金、売掛金、建物、土地、機械などがこれにあたります。将来、会社にお金をもたらすものです。
負債:会社が将来的に支払う義務のあるお金のことです。買掛金、借入金、未払金などがこれにあたります。
純資産:資産から負債を差し引いた残りの部分です。会社に返済義務のないお金で、株主が出資したお金や、会社が稼いだ利益の蓄積などが含まれます。純資産は会社の自己資本であり、会社の体力や安定性を測る重要な指標です。
この3つの関係性によって、会社が債務超過なのか資産超過なのかが決まります。
資産 − 負債 = 純資産
債務超過とは、負債の合計が資産の合計を上回っている状態です。つまり、会社が持っている財産をすべて売却しても、借金が返せない状態を指します。資産引く負債の合計額である純資産がマイナスになります。これは、会社の資金繰りが厳しいことを示すサインであり、経営上危険な状態と言えます。
一方、資産超過とは、資産の合計が負債の合計を上回っている状態です。この場合、純資産はプラスになります。会社が借金をすべて返済してもなお、手元に資産が残る状態であり、会社の経営が安定していることを示します。
いま、説明した内容は貸借対照表の右下「純資産」の部を見れば一目で確認することができます。
債務超過の状態は、特に金融機関からの評価に大きく影響します。なぜなら、金融機関は融資をする際に、その会社に返済能力があるか、倒産のリスクが低いかを厳しく審査するからです。債務超過の会社には、金融機関は以下のような対応を取る可能性があります。
1. 審査が通りにくくなる
債務超過の会社は、万が一の際に資産を売却しても借金を完済できない状態にあります。これは金融機関にとって、貸し倒れのリスクが高いと判断される大きな要因となります。融資の申し込みがあっても、「この会社にお金を貸しても本当に返ってくるのか?」という疑問符がつくため、審査が通りにくくなります。
2. 金利の引き上げや保証人の追加要求
もし債務超過の状況で融資が受けられたとしても、その金利は通常よりも高く設定される可能性があります。これは、金融機関がリスクの高い融資に対して、より高いリターンを求めるためです。また、会社の信用力が低いと判断されるため、社長個人による連帯保証や、追加の保証人を求められることも増えます。
3. 新規融資の停止や既存融資の条件変更
さらに厳しいケースでは、新規の融資が受けられなくなるだけでなく、既存の融資についても返済計画の見直しや、追加の担保提供などを求められることがあります。資金調達の選択肢が著しく狭まるため、会社の成長戦略や日々の資金繰りに大きな支障をきたします。
中小企業にとって、金融機関からの融資は事業を継続・拡大していく上で非常に重要な資金源です。債務超過の状態を放置することは、将来的な資金調達の道を閉ざしてしまうことになりかねません。
債務超過は、適切な手を打つことで解消し、会社の財務体質を改善することは可能です。具体的な解消方法をいくつかご紹介します。
1. 利益を上げて純資産を増やす
最も健全で基本的な債務超過の解消方法は、本業で利益を上げて、純資産を増やすことです。会社が利益を出し続ければ、その利益は蓄積され、純資産を増加させます。日々の売上を増やし、コストを削減するなどして、利益体質への転換を図ることが重要です。これは時間がかかる方法ですが、会社の根本的な体質改善につながります。
2. 増資を行う
増資とは、株主から新たにお金を出資してもらうことです。増資によって会社に入ってきたお金は、返済義務のない「純資産」に計上されます。これにより、負債が変わらなくても純資産が増加し、債務超過の解消に貢献します。
3. 借入金を減らす(デット・エクイティ・スワップなど)
中小企業の場合、社長や役員が会社に貸し付けをしていることが少なくはありません。その役員借入金を資本金に組み入れる(デット・エクイティ・スワップ)ことで、負債を減らし、純資産を増やすことが可能です。これは、家族経営の中小企業などでよく見られる方法です。
4. 資産の売却
遊休資産や不要な資産を売却して現金化し、その資金で負債を返済することで、負債を減少させることができます。例えば、使っていない土地や建物、古い機械設備などがあれば、売却を検討するのも一つの手です。ただし、事業に必要な資産まで売却してしまうと、本業に支障が出る可能性があるため、慎重な判断が必要です。
これらの方法は、会社の状況や今後の戦略に合わせて複合的に実施することが多いです。
債務超過の状態から脱却し、資産超過になることは、会社の未来にとって非常に大きなメリットをもたらします。
1. 金融機関からの信用力向上
資産超過の会社は、財務基盤が安定していると見なされるため、金融機関からの信用が格向上します。これにより、
2. 取引先からの信頼獲得
取引先も、自社の取引先の経営状況に関心を持っています。資産超過の会社は、経営が安定しており、長期的な取引が期待できると判断されるため、取引先からの信頼も厚くなります。これにより、
3. 事業承継やM&Aの選択肢拡大
将来的に事業承継を考えている場合や、M&A(企業の合併・買収)を検討する際にも、資産超過であることは有利に働きます。
資産超過は、会社の持続的な成長と発展のための強固な基盤を築きます。
多くの中小企業の社長は、日々の業務に追われ、自社が資産超過なのか債務超過なのか、正確に把握できていないケースが少なくありません。しかし、「知らない」ことは、時に会社の命取りとなりかねません。債務超過の状態を放置してしまうと、気づかないうちに問題が深刻化し、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
債務超過の解消は、単に帳簿上の数字を黒字にするよりも、はるかに高い難易度を伴います。なぜなら、単年度の利益を出すだけではなく、会社の根本的な財務体質を改善する必要があるからです。だからこそ、中小企業の経営者の皆さんは、債務超過とは何かを深く理解し、その危険性を認識することが不可欠です。
貸借対照表に意識を向け、自社の財務状況を正しく把握することが、健全な会社経営の第一歩です。もし、今回の記事を読み自社が債務超過であることを認識し、債務超過から脱却したいと考えているのであれば、ぜひ私たちのような財務の専門家にご相談ください。早期に適切な対策を講じることで、会社の未来は大きく変わります。
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