行政書士
財務コンサルタント
磯村 威暢
2,000万円の負債がある会社を復活させた財務管理力と、採用から資金繰り、設備投資まで、経営者として20年のキャリアで培った問題解決力を活かして中小建設業者の経営をトータルサポート。
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[持続可能な経営支援]
「売上は上がっている。利益も出ている。なのに資金繰りは苦しい」。建設業では、こうした相談が珍しくありません。原因の多くは、会計上の売上・利益と、実際の入金・支払いのタイミングがずれていることにあります。そのズレを生む大きな要因が「工事進行基準」です。これは経理担当の専門領域に見えますが、実は経営の意思決定に直結する“社長の必修”です。本記事では、工事進行基準の本質をできるだけわかりやすくひも解き、資金繰りに与える影響と、現場で取るべき対策を整理します。
目次
工事進行基準とは、工事の進捗(出来高)に応じて売上と利益を計上する会計の考え方です。中小建設業の多くは「原価比例法」を用い、発生原価の累計額を見積総原価で割った進捗率によって、当期の売上を算定します。
ここで押さえるべきは、「売上計上は会計ルールで機械的に決まる一方、入金は契約条件で決まる」という点です。つまり、売上と入金は別世界の出来事であり、両者のタイミングが一致するとは限りません。社長に求められるのは、この“二つの時間軸”を同時に扱う視点です。
多くの現場では、出来高に応じて売上と利益が先に計上されるのに、入金は完工後の一括払い、あるいは検査合格・締め・翌月(もしくは翌々月)払いという条件が続いています。人件費・外注費・材料費は現場の進捗とともに毎月出ていくのに、入金は最後にまとまって入る。この構造だけでも資金は苦しくなりますが、さらに厄介なのは「利益を計上すれば税金が発生する」という現金支出が重なることです。結果として、工期の途中では資金が先に出て、利益の税負担も先に出て、入金だけが後から来る。会計上の黒字と、現金の不足が同時に起きるのはこのためです。
このズレは、工事の規模が大きく、工期が長くなるほど顕著になります。金額が大きい分、原価の先出し額も大きくなり、出来高計上による利益額も膨らむため、税金の発生も無視できない規模になります。
たとえば請負2億円・工期2年の案件で、今期の出来高が60%であれば、会計上は1.2億円の売上を計上し、原価を差し引いた利益が出ます。
しかし入金が来期の完工後なら、今期は原価の支払いと税金の支払いが現金で先に出ていく一方、入金はゼロ。会社の手元資金にとっては大きな谷が生じます。下請への支払サイトが短く、元請からの入金サイトが長い会社ほど、この谷はさらに深くなります。
社長がよく誤解するのは、「出来高で売上を立てるなら、そのタイミングで入金もあるはずだ」という感覚です。実務では、出来高計上と入金の有無は全く別の話です。
会計は“原価の発生”に引っ張られて売上を計上しますが、入金は“契約条件”に引っ張られて動きます。引っ張る力が違うため、両者が一致しないのはむしろ自然です。
もう一点、試算表の黒字を見て安心してしまう心理も危険です。数字が良く見える時期ほど、資金の先出しが効いている可能性があります。経営判断の基準を“利益”から“キャッシュ”に切り替える意識が必要です。
対応の第一歩は、契約段階で「中間金(出来高請求)」の条件を可能な限り織り込むことです。慣行や力関係があるため容易ではありませんが、交渉しなければ条件は変わりません。主要工程の検収時点や、出来高何%で何%支払うのかなど、資金の谷を浅くする節目を契約書に明記することが理想です。
次に、「工事別の資金繰り表」を用意すること。全社の資金繰り表だけでは、案件ごとの山谷が見えません。各工事について、原価の発生スケジュール、請求・入金のスケジュール、税金の見込みを含めたキャッシュフローを一つの時間軸に置き、月次で更新します。特に大規模工事は、他案件のキャッシュを飲み込む存在になりやすいため、単体でのモニタリングが不可欠です。
さらに、意思決定では必ず「税引後キャッシュフロー」を見ること。粗利や営業利益で判断すると、税金という現金支出を見落とします。必要であれば、着手前に運転資金の借入や与信枠の確保、支払サイトの見直しを進め、資金の谷を越えるための“橋”を先に架けておきます。
現場でよく見かけるのは、期をまたぐ大規模工事で出来高を多めに計上し、結果として今期の利益と税負担が膨らむ一方、入金は来期に集中しているというケースです。この状態で、並行する別案件の原価支払いが重なると、資金の谷が想定以上に深くなります。回避するには、出来高の見積りを保守的に運用する、原価発生のピークと入金の節目が重なるよう工程と請求計画を調整する、税負担の見込みを前倒しで積み立てる、といった地道な手当てが有効です。
また、元請との関係性づくりも資金面の安全に直結します。事前に資金条件の重要性を共有し、検収や出来高認定のプロセスを透明化しておくと、中間金の導入や早期支払い交渉が通りやすくなります。金融機関に対しても、工事別の資金繰りと入金予定を開示し、必要枠を早めに相談しておくと、急場に耐える余力が生まれます。
結論として、大規模工事を一律に避ける必要はありません。
重要なのは、会社の体力に照らした“勝てる案件”かどうかを、キャッシュの観点で判断することです。中間金の導入、工事別資金繰り表の先行作成、税引後キャッシュフローの予測、借入や与信枠の準備、支払サイトの設計、これらがセットで整っていれば、攻めるべき案件は安全に攻められます。逆に、準備がないまま背伸びをすると、採算が良い案件でも会社全体の資金繰りが詰まる。売上や利益の数字だけでなく、資金の時間軸を合わせにいく意識が、会社の強さを決めます。
工事進行基準は、会計の技術論に見えながら、実は資金繰りという経営の要に直結しています。 売上・利益は数字の世界、入金・支払いは現金の世界。この二つが別の時間軸で動くことを前提に、契約、工程、請求、調達、税の各プロセスを設計し直すことが、黒字倒産の回避につながります。もし自社の案件で「出来高計上は進んでいるが、入金は完工後」という仕事が増えているなら、今が見直しの好機です。工事別の資金繰り表を整え、税引後のキャッシュフローを見える化する。条件交渉の余地を探り、必要なら金融機関と余裕のあるうちに対話する。こうした地道な取り組みこそが、景気や案件の大小に振り回されない会社の体力をつくります。
当事務所は、江戸川区・葛飾区を中心に東京の東地区で建設業に専門特化し、許可取得から経営改善までワンストップでサポートするのが大きな特長です。 一般的な行政書士が許認可代行に留まる中、当事務所は許可取得後の成長戦略まで踏み込みます。20年以上の経営経験と、税理士・社労士・金融機関など必要な専門家ネットワークをワンストップで繋ぎ、経営課題を解決します。(お問合せは公式LINEより)
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