
行政書士
財務コンサルタント
磯村 威暢
2,000万円の負債がある会社を復活させた財務管理力と、採用から資金繰り、設備投資まで、経営者として20年のキャリアで培った問題解決力を活かして中小建設業者の経営をトータルサポート。
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[持続可能な経営支援]
中小企業にとって、金融機関(以降銀行)は単なる資金の出し入れ先ではなく、事業成長を支える重要なパートナーです。既存の取引銀行が1行のみという中小企業も少なくありませんが、資金調達や経営相談の窓口を複数持つことは、リスク分散だけでなく、より有利な条件を引き出す上でも不可欠です。しかしながら、中小企業が新たな銀行との取引を開始するには、個人口座の開設とは異なる手続きや準備が必要となり、決して容易ではありません。そこで今回は、中小企業が新規銀行との関係をスムーズに築くための重要なポイントを解説していきます。
中小企業が新規銀行との取引を開始する上で、最もハードルが高いのが銀行窓口への飛び込みです。創業融資であれば可能性はゼロではありませんが、業歴が数年ある企業が何の事前連絡もなく融資を申し込んできた場合、銀行は警戒心を抱くのは当然と言えるでしょう。既存の取引銀行で融資を断られたのではないか、あるいは他に何か問題があるのではないかと勘繰ります。たとえ決算内容が良好であっても、銀行は「何か隠しているのではないか」という疑念を容易には払拭しません。
どうしても飛び込みで臨む必要があるならば、会社の概要や強みをまとめた会社案内、提供している商品やサービスの詳細、直近の決算書や試算表、そして今後の資金繰りを示す資金繰り表などを準備し、自社の状況を丁寧に説明することが不可欠です。また、なぜ新規の銀行との取引を希望するのか、その理由を明確に伝えることも重要です。これらの準備を怠ると、門前払いとなる可能性も十分にあります。したがって、飛び込みはあくまで最終手段と考えておくべきでしょう。
紹介によるアプローチは、新規の銀行との関係構築において、最も推奨される安全かつ確実な手段の一つです。見知らぬ企業がいきなり窓口に現れるよりも、信頼できる第三者からの紹介があることで、銀行側は安心して話を聞く体制を整えやすくなります。紹介者が既存の優良な取引先や、銀行からの信頼が厚い顧問税理士などであれば、その効果はさらに高まります。銀行担当者は、紹介者の顔を立てる意味でも、丁寧に対応してくれることが期待できるでしょう。
しかしながら、紹介という手段を用いる際には、紹介者の選定が極めて重要となります。もし紹介者の会社の経営状況が芳しくなかったり、日頃の素行や評判が周囲からあまり良く思われていない経営者からの紹介だった場合、銀行は紹介された企業に対してもネガティブな印象を持つ可能性があります。「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、紹介者の信用力が低いと、紹介された側の信用力まで疑われてしまうリスクがあるのです。最悪の場合、紹介が逆効果となり、銀行の警戒心を不必要に高めてしまうことも考えられます。
したがって、紹介を依頼する際には、相手の銀行との関係性はもちろんのこと、その人物の社会的信用や評判を十分に考慮する必要があります。普段から誠実な経営を行い、周囲からの信頼も厚い人物を選ぶことが、紹介を成功させるための重要なポイントと言えるでしょう。安易な紹介依頼は避け、慎重に紹介者を選ぶように心がけてください。
「飛び込み」や「紹介」は、中小企業側からの能動的なアプローチですが、最も円滑かつ有利に取引を開始できる理想的な形は、銀行からのアプローチを待つことです。
もちろん、ただ待っているだけで銀行がアプローチしてくるわけではありません。銀行が「この企業と取引したい」と感じるような状況を、会社側から積極的に作り出す必要があります。具体的には、「預金口座の開設」、そしてその「預金口座を積極的に動かす」ことによる取引実績の積み重ね、さらに第三者機関である「帝国データバンク」などの企業情報データベースへの登録と情報発信などが有効な手段となります。これらの取り組みを通じて、銀行の目に留まりやすくなり、結果として良好な関係構築につながる可能性が高まります。この後、それぞれの方法について詳しく解説していきます。
銀行口座を開設しただけで、すぐに銀行からアプローチがあるとは限りません。 まず、預金口座を開設するには、銀行の審査を経る必要があります。その際、一般的には会社案内や商品・サービスの資料などを提出します。通常の口座開設のみであれば決算書の提出は必須ではありませんが、積極的に最新の決算書を提出することは、銀行に自社の財務状況を理解してもらう上で非常に有効です。良好な財務状況であれば、銀行側の信用供与へのハードルが下がり、融資などの提案に繋がりやすくなります。これらの資料が営業担当の行員に渡り、その行員が自社に興味を持つきっかけとなり、結果としてアプローチに繋がる可能性があります。このように、口座開設という機会を捉え、会社の情報を積極的に開示することは、銀行からのアプローチを期待する上で有効な手段となります。
預金口座を積極的に動かすことが、銀行からのアプローチを期待するうえで有効な手段となります。口座を動かすとは、具体的には売上金の入金口座とする、手形取立の口座として利用する、仕入れや経費などの支払いの振込口座とする、といった活動を指します。
事業活動が活発であれば、売上金の入金や仕入・外注費の支払いなど、口座の動きは自然と大きくなります。取引規模が大きければ、それに伴い口座の入出金も頻繁になるため、銀行に業況が順調な会社であるという印象を与えることができます。逆に、口座の動きが少ないと、事業活動が停滞しているのではないか、といった疑念を持たれる可能性があります。
銀行が会社に対して業況が良いという印象を持つことは、融資やその他のサービスの提案といったアプローチの可能性を高めることに繋がります。
多くの銀行が、新規取引先の開拓に帝国データバンクの企業情報データベースを活用しています。帝国データバンクの資料には、企業概要や財務情報に加え、帝国データバンクの独自調査に基づいた評点が付けられています。この評点は、直近の決算書の数値データ(定量情報)だけでなく、帝国データバンクの調査員が直接社長に行ったヒアリング内容(定性情報)、企業の事業内容、将来性などを総合的に勘案して決定されます。一般的に、51点を境として、これ以上の評点であれば銀行は優良企業と判断し、積極的に取引を検討する傾向があります。一方、50点以下の評点の企業に対しては、リスクが高いと判断し、新規の取引に慎重になる、あるいはアプローチを見送るケースがほとんどです。したがって、銀行からの積極的なアプローチを期待するのであれば、日々の経営努力を通じて財務内容を健全化し、帝国データバンクの評点を安定的に51点以上に維持することが、非常に重要な戦略となります。
銀行からの融資が経営戦略の重要な要素となる中小企業にとって、銀行との取引関係をいかに自社にとって有利な状態に築き上げるかは、単なる資金調達の手段に留まらず、事業成長の持続可能性を左右する非常に重要な経営戦略の一つと言えます。そのため、数多くの金融機関が存在する中で、どの銀行と、そしてどのような形で最初の取引を開始するのかは、将来的な資金調達の柔軟性や取引条件に大きく影響を与えるため、慎重に自社の状況や戦略を考慮した上で判断し、計画的に進める必要があります。
今回解説した、自社から積極的に関係性を構築する「飛び込み」や「紹介」といったアプローチ、そして銀行からの関心を惹きつけ、アプローチを促すための「預金口座の開設と活用」「帝国データバンクの評点向上」といった施策が、貴社にとって有利かつ友好的な銀行取引の開始、そしてその後の円滑な関係構築と継続的な発展の一助となれば幸いです。それぞれの方法のメリット・デメリットを理解し、自社にとって最適な戦略を実行していくことが重要です。
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