行政書士
財務コンサルタント
磯村 威暢
2,000万円の負債がある会社を復活させた財務管理力と、採用から資金繰り、設備投資まで、経営者として20年のキャリアで培った問題解決力を活かして中小建設業者の経営をトータルサポート。
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[建設業許可]
建設業を営む企業にとって、経営業務の管理責任者と並ぶ最重要の要件が「営業所技術者」の配置です。許可を維持し、日々の請負契約を適法に締結するためには、この営業所技術者が各営業所に「常勤」し、その業務に「専任」していなければなりません。このルール自体は、建設業の経営者であれば、誰もが認識していると思います。
しかし、実務の現場においては、この“専任性”の解釈を巡って思わぬ落とし穴が潜んでいます。実際に行政処分や厳重注意を受ける事例の多くは、「社内の人手不足を補うため」「業務を効率化するため」といった、経営上・業務上の「良かれと思って行った判断」が発端となっています。
特に、現場の技術者不足が深刻化する昨今、一人の優秀な技術者に複数の役割を期待せざるを得ない状況が増えています。本記事では、建設業の社長が実務で見落としがちな、営業所技術者の専任性が問題になるケースについて詳しく解説します。
目次
建設業法における営業所技術者の大原則は、「一つの営業所に常勤し、その営業所における技術的業務に専念すること」です。したがって、物理的に離れた複数の営業所の営業所技術者を兼任することは、原則として認められません。
例えば、近隣のエリアに新しく支店を開設した場合に、新支店側の営業所技術者として適任者がすぐに見つからない、あるいは配置したものの経験が浅いという理由から、本店の営業所技術者が、週の半分を新支店に移動して実務の指導や見積もりのチェック、契約の立ち会いなどを行っているケースがあげられます。
移動時間が車で30分程度だから問題ないだろうと判断されがちですが、これは本店の営業所技術者としての「専任性」を損なう行為とみなされる可能性が極めて高いです。行政調査の際には、出勤簿やタイムカード、さらには交通費の精算履歴やETCの利用記録まで確認されることがあります。その結果、本店の営業日において、本店以外の場所で頻繁に業務を行っている実態が発覚すれば、本店の営業所技術者が不在であったと判断され、許可要件の欠格期間が生じてしまうリスクがあります。
同一の法人が建設業以外の他業種(例えば、不動産業や建築設計事務所)を兼業している場合も注意が必要です。同一法人の同一店舗内であれば、宅地建物取引業の「専任の宅地建物取引士」や、建築士事務所の「管理建築士」との兼任は、業務に支障がない範囲(同一敷地内など)において例外的に認められる傾向にあります。
しかし、これらが「別々の場所」にある場合は完全に認められません。たとえ同じ町内であっても、建物が異なればそれぞれの場所に常駐することが物理的に不可能であると判断されるためです。
さらに、グループ企業(親会社と子会社など)間での技術的支援が挙げられます。資本関係が深く、実質的に一体経営を行っているからといって、子会社の営業所技術者が親会社の営業所の見積もり業務や技術相談に日常的に関与している場合、子会社での専任性が否定されます。出向契約を締結して籍を適切に移すか、完全に業務を分離しなければ、両社の建設業許可そのものが揺らぐ事態へと発展しかねません。形式的なグループ内の助け合いが、法令違反の引き金になります。
営業所技術者に関して最も誤解が多く、トラブルに発展しやすいのが「工事現場への配置(主任技術者・監理技術者との兼任)」および「現場への応援・手伝い」に関するルールです。原則として、営業所技術者は、工事現場の主任技術者や監理技術者になることはできません。なぜなら、営業所技術者は営業所に常駐して見積もりや契約締結の技術的判断を行うのが職務であり、現場に張り付く工事の技術者とは役割が異なるからです。
ただし、これには明確な特例が存在します。それは、当該営業所で締結された工事契約であり、かつ、その工事現場が営業所から密接な連絡が取れる近距離(一般的には片道1時間程度など、自治体により基準は異なります)にあり、さらに、その工事が「専任を要しない工事(公共性のある工作物に関する重要な工事で、かつ請負金額が一定規模未満のもの)」である場合に限られます。この3つの条件をすべて満たして初めて、営業所の専任技術者が現場の主任技術者を兼ねることができます。
しかし、実務で問題になるケースは、この特例の範囲外で発生する「非公式な現場応援」です。建設現場では、工期の逼迫や突発的な人手不足、あるいは難易度の高い工程を迎えた際に、「今日だけ、あるいは今週だけ、営業所技術者に現場に来てもらって手を貸してほしい」という状況が容易に起こり得ます。営業所技術者自身も元々は現場叩き上げの優秀な技術者であることが多いため、良かれと思って現場に赴き、重機の運転や施工の直接的な指揮を行ってしまうのです。
これがなぜ危険かというと、行政や元請け企業による現場パトロール、施工体制台帳の確認、あるいは労災事故が発生した際の調査によって、「営業所の専任技術者が、営業所の開所時間帯に現場にいた事実」が記録として残るためです。
特に、現場の施工管理アプリや入退場管理システムが普及した現代においては、誰がいつ、どの現場にいたのかがデジタルデータとして厳密に記録されます。「主任技術者としての届出をしていないから大丈夫」「ただの手伝いだ」という言い訳は通用しません。実態として営業所を留守にし、現場の業務にリソースを割いていたのであれば、それは専任性違反となるのです。
中小建設業において、営業所技術者が「取締役技術部長」や「本店長」といった、会社の重要な管理職や経営陣を兼任しているケースはよくあることです。これ自体は禁止されているわけではありませんが、兼務する「職務の内容とボリューム」が、営業所技術者としての本来の業務を圧迫し、実態を失わせていると判断されるケースが新たな問題となっています。
行政が示す営業所技術者の判断ラインにおいて、最も重要視されるのは「その営業所の開所時間中、専任技術者としての職務に専念できる環境にあるか」という点です。ここで問題になるのが、総務、人事、財務といった「建設業の技術業務とは全く無関係な社内統括業務」を、営業所技術者が兼務している場合です。
例えば、少数精鋭の企業で、営業所技術者である取締役が、社内の採用活動の面接官を担当し、全国の学校を飛び回っていたり、資金調達のために連日銀行との交渉に赴いていたり、あるいは全社の労務管理やクレーム処理の責任者として営業所外での対応に追われていたりする場合です。これらの業務に時間を忙殺され、営業所における技術的なチェックや管理が形骸化しているとみなされれば、専任性の要件を満たしていないと判断される原因になります。
もう一つの判断ラインは「物理的な拘束」と「権限の重複」です。営業所技術者が、自社の他部門のマネジメントだけでなく、例えば「安全衛生委員会の委員長」として、自社のすべての作業所の安全巡回を定期的に行う任務を負っている場合、これも専任性との整合性が問われます。定期的な巡回ルートやスケジュールが組まれているということは、その間、自らの所属する営業所を不在にすることが客観的に証明されてしまうからです。
管理職や本社業務との兼務を適法に維持するための判断ラインは、あくまで「建設業の技術的業務が主であり、その他の管理業務は従の範囲に収まっていること」、および「他業務のために営業所を長期間、あるいは頻繁に不在にしないこと」です。このバランスが崩れた段階で、組織体制の再構築や、営業所技術者の交代を検討しなければなりません。
建設業における営業所技術者の専任性は、形式的な書類の整備だけでクリアできるものではありません。時代の変化とともに、行政の調査手法や実態把握の精度は格段に上がっており、デジタルデータや実態調査をベースにした「実質主義」での審査が強まっています。
複数営業所への過度な関与、他業種との物理的兼ね合い、人手不足に起因する現場への応援、そして過重な社内管理職業務の兼務。これらはすべて、悪意のない「企業の維持・発展のための行動」から発生するリスクです。
建設業の社長は、営業所技術者というポジションが持つ法的な重みを今一度再認識し、「良かれと思って」の例外を認めない社内ルールと、それを遵守できる人員体制を整えることが求められます。営業所技術者の正しい理解と適切な配置こそが、企業の社会的信用を守り、持続可能な経営を実現するための確固たる基盤となります。
当事務所は、江戸川区・葛飾区を中心に東京の東地区で建設業に専門特化し、許可取得から経営改善までワンストップでサポートするのが大きな特長です。 一般的な行政書士が許認可代行に留まる中、当事務所は許可取得後の成長戦略まで踏み込みます。20年以上の経営経験と、税理士・社労士・金融機関など必要な専門家ネットワークをワンストップで繋ぎ、経営課題を解決します。(お問合せは公式LINEより)
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